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早稲田で読む・早稲田で飲む 第7回 「早稲田宿泊」でまなんだこと 南陀楼綾繁

 こないだ何気なく買った、高野秀行『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)が滅茶苦茶オモシロイ。高野氏は、1989年に早稲田大学の正門から徒歩五分のところにある、古い木造二階建てのアパート「野々村荘」に入居した。三畳でトイレはもちろん共同、家賃は1万2000円だったという。

 高野氏は1966年生まれで当時、早稲田の探検部にいたというから、ぼくと同時期に在学していたコトになる。しかし、このヒトが変わっているのは、それから2000年までの11年間、同じアパートに住み続けたことだ。この本では、長年にわたる三畳間の生活で体験したことや、アパートの他の住人のことなどを描いている。読み終わって、同じ貧乏アパート暮らしを描いた、松本零士の『男おいどん』が読み返したくなった。こちらはもっと泥臭い青春だけど。

 ぼくも早稲田に住みたかった。入学したときに、学生課の掲示を見て、早稲田のアパートもひとつふたつ下見したが、どれも狭くて薄暗く、そのくせ結構高かった。目白台にある和敬塾という男子学生のための寮も見に行ったが、クラブ活動やら集会やら、まるで自衛隊みたいな共同生活なので、ココもパスした。結局、西荻窪の下宿屋に落ち着くことになり、大学の近くで暮らすコトへの憧れが残った。

 しかし、早稲田で暮らしている友人のハナシを聞くと、かならずしもイイことばかりじゃないらしい。大学の近くにいると、昼でも夜で友人たちの「たまり場」になってしまうからだ。高野氏の本にも、自分の部屋に隣の住人や後輩たちが自由に出入りし、掛かってきた電話まで取られてしまう様子が描かれている。

そういえば、ぼくもサークルの飲み会のあとで、よくヒトのアパートに遊びに行った。先輩の中には、「早稲田宿泊」の常習犯も多く、まだ飲み足りない、食い足りないというときにも、「あの店ならおでんの持ち帰りができるから」と買いに行かされた。それを持って近所の後輩の部屋を襲撃するのである。電車が無くなれば、当然のようにその部屋に泊めてもらった。さすがに三畳はなかったが、四畳半の部屋に三、四人で泊まったこともある。

 一部屋しかない狭い空間で、本棚から勝手に本を出して眺めたり、一緒にビデオを観たりするうちに、そいつの好みやモノの見方が判ってくる。先輩の部屋で、存在すら知らなかったバンドや本を知って、衝撃を受けたコトも多い。「早稲田宿泊」でぼくがまなんだことは意外と大きかったのかもしれない。

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プロフィール
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)
1967年、出雲市生。1986-90年、早稲田大学第一文学部に在学。現在、ライター・編集者。著書に『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、編著に「チェコのマッチラベル」(ピエブックス)がある。

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ナンダロウアヤシゲな日々  http://d.hatena.ne.jp/kawasusu/
by sedoro | 2005-10-15 12:43 | 早稲田で読む・早稲田で飲む
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