人気ブログランキング | 話題のタグを見る

古本バイト道 ーこんなアタシに誰がしたー 第14回 初めての西部会館「えっ、これが?」 濱野奈美子

何度も話が前後して大変申し訳ありませんが、今回は1995年の話です。しかも、穴八幡の早稲田青空古本祭まで戻ります。

 穴八幡の古本祭も終わりに近づいた頃、とある本屋さんが言いました。

「再来週の土曜日だけ新宿展に出れない?」

 再来週?…22日ですね。もちろん大丈夫ですよ。新宿展ということは売り子ですね。もう、ばっちりです。まかせてください。

「んじゃ、10時ちょっと前に『セイブ』に来て」

 ん? セイブ? 西武? それとも西部? あのー、セイブってどこですか?

「あれっ、セイブの会館知らない? なんか、すっかりベテランみたいな顔しているから知ってると思ってたよ」

 念のため断っておきますが、このとき私は、まだ古書業界のバイトを初めて一週間です。一週間でベテランって…。いや、そんなつっこみはここではいいん です。そんなところで引っかかってたら、肝心の「セイブ」がどこにあるのか聞き逃してしまいます。

「高円寺の北口を出ると左手に交番があって、そこをまっすぐ行くとオリンピックの裏にあるから、西部古書会館」

 あぁ、やっと意味がわかりました。古書会館には「西部」もあるのか。高円寺のオリンピックってなんか見たことあるような気がします。そこで古書展をやってると。で、売り子をすればいいんですね。はい、はい。

「はい、はい」と手帳に「高円寺 新宿展 北口出て、左手に交番でオリンピックの裏 西部古書会館」とメモった私は、当日、見事に南口に出てしまうんですが。どうしてこんなことが起こってしまうのか、自分でも不思議です。ま、南口にはオリンピックはないので、すぐに間違いに気付きましたけど。

 でも、西部会館に着いた私は、またまた、びっくりするのでした。

 こ、小屋?

 西部古書会館をこよなく愛す皆様、すみません。でも、これが素直な感想でした。だって、とっても露店っぽい。ほったて小屋にしか見えなかったんです。 味があるといえばいいんでしょうか? あり過ぎです。しかも、もっとびっくりすることに、なんと靴を脱いで上がるんです。そんな話、聞いてないよ。今日の靴下、穴あいてなかったっけ? …おっと、セーフ。嫁入り前の娘として、穴あき靴下をさらして終日過ごす屈辱だけは避けなければ。良かった、良かっ た。

 始まってしまえば、特にほかの古書展と違うわけでもないし、仕事自体は問題なくできたにはできたんですけど…なにここ? 冷える。スリッパ履いてても、ものすごい底冷えがします。だって、板の間の「小屋」ですからね。それに、スリッパもビニール製のトイレにあるみたいなスリッパだし。ひょっとした ら、こっちが冷やしてんのかも。いずれにしても、冷え性には辛いです。

 この日はただ「西部会館=寒い」ということだけがしっかりと頭にインプットされました。しかし、実はそんなのまだまだ序の口で、雪吹き荒ぶ中の「BIG BOX」とか、更なる地獄があるということを、このときの私はまだ知らないのでした。

メルマガ購読はこちらから http://www.mag2.com/m/0000106202.html
※感想はコメント欄へ。ただし返答はしておりません。ご了承ください。

-------------------------------------
プロフィール
濱野奈美子(はまの・なみこ)
フリーライター。長い古本バイト経験を生かして『アミューズ』の古本特集や
『古本 神田神保町ガイド』(共に毎日新聞社)などで活躍する。本業のライ
ターでは古本だけではなく、サッカー、食べ物なども。なんでも来い。
by sedoro | 2005-11-19 23:36 | 古本バイト道
<< チンの遠吠え 第1回 大学裏... 早稲田の文人たち 第20回 中... >>