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早稲田で読む・早稲田で飲む 第21回 「ガウディ・マンション」襲撃事件  南陀楼綾繁

 早大正門の真正面、ロータリーの先に、「早大通り」がまっすぐ延びている。いまはそこそこ車が通るようだが、ぼくの在学時には、いつでも歩行者天国状態で、無駄に広い道だとしか思えなかった。この道沿いには、食堂などの店も少なかった(鶴巻町方面に2、3分歩いたトコロに、名前を忘れてしまった名曲喫茶があり、一度クラスのヤツと行ったことがある)。

 その通りを、地下鉄早稲田駅の方向に曲がる角に、異様な建造物がある。5階建て(?)ぐらいのビルで、壁面はアールデコ調のタイル貼り。一階には大きな丸窓(豪華客船にあるような)がいくつか。上方には、葉っぱをぐじゃぐじゃにしたような飾り。ラブホテルのような、と云うべきか、ガウディの建築のような、と云うべきか(建築の門外漢にとっちゃ、どちらでも同じ)。周囲は学校や会社のビルが多いので、その姿はメチャクチャ目立ってる。一階には店が入っているが、上の階は住居のようだ。

 その「ガウディ・マンション」(とぼくは呼んでいた)を襲撃したコトがある。サークルの連中と行きつけの〈いこい〉で飲んでいて、すっかり酔っぱらったときのことだ。電車がなくなるといつも泊めてもらうSさんの部屋へ向かう途中、「ガウディ・マンション」の前にさしかかった。酔眼で見ると、いつも以上にヘンな建物だ。

「入ってみるか」「おお、そうすっか」

 酔った勢いでナカに入った。さすがにガウディ、入り口もまっすぐではなく、壁がくねっている。まるで「胎内めぐり」だ。一階の奥まで入ると、そこはホールになっていた。これもどこかの鍾乳洞の内部みたい。上にあがってみたかったが、ヤバいかなという気になり、外に出た。気づいたら、後輩のNくんがゴミ箱を持っている。

「おい、なんだよそれ」「いや、おもしろいカタチだと思って……」

 さすがに、のちに大学院で美術史を専攻するだけのコトはある。酔っぱらっていても美しいモノには目がないのだ。もっとも、道路工事の看板を持って帰る行為とあまり変わらないけど。そのゴミ箱はどうしたのだろうか? 小心者だから、しばらく行ってから、また戻したような気もする。

 この回を書くために、ネットで検索してみると、いろんなコトが判った。「ガウディ・マンション」の正式名称は「ドラード早稲田」。しかし、別名は「和世陀」(わせだ)。1983年8月に竣工している。建築家は、梵寿綱(ぼん・じゅこう)というヒトで、数々の変わった建物を手掛けている。1934年、 浅草生まれで、本名は田中俊郎とごくフツーのお名前。ご自身のサイト
(http://www.vonjourcaux.org/)もあるが、コレ自体かなり変わっていて、Windowsでは大丈夫なのだが、Macintoshだと上に画像がかぶさって、どうやっても日本語ページに入れないのだ。ともあれ、かなり興味深いヒトなので、ご一覧をオススメする。

 昨日、久しぶりに「ガウディ・マンション」を見に行ったが、その偉容は健在だった。一階には美容室が入っている。また、〈城の樹〉という看板があった が、コレは以前にあっった喫茶店のものらしい。ほかにも、「ギャラリーがあって展覧会をやっていた」と知人に聞いたこともある。この辺の検証も含めて、 誰か「ガウディ・マンション」についての記事を書いてくれないだろうか。

ちなみに、高田美季「まちかどの散歩者」というエッセイ
(http://www.bzbz.org/bzbz/machikado/0012.html)では、この建物に住みたい
と思って不動産屋に相談した(分譲だったそうだ)とある。この女性は、ぼくのサークルの後輩なのだ。ヘンな奴ばかり集まるサークルなのであった。

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プロフィール
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)
1967年、出雲市生。1986-90年、早稲田大学第一文学部に在学。現在、ライター・編集者。著書に『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、編著に「チェコのマッチラベル」(ピエブックス)がある。

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ナンダロウアヤシゲな日々  http://d.hatena.ne.jp/kawasusu
by sedoro | 2005-11-19 23:51 | 早稲田で読む・早稲田で飲む
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