■前田 前田和彦です。えーっと、このメルマガを編集しいてる、早稲田の古書店「古書現世」若頭の向井アニキの指令によりまして、「チンの遠吠え」がリニューアルして帰ってきました。見ての通り、今回からは対談形式です。関西本バカ界の若手砲弾、いや放談をお送りしやす。しかも初回ということで拡大版なのだっ!文句あっか!!というわけで、まずは相方の紹介から。
▼北村 はじめまして。北村知之です。ええと、インターネットで、「エエジャナイカ」(http://d.hatena.ne.jp/akaheru/)という日記を書いていまして、いわゆる書物ブログの末席を汚させてもらっているという感じなのですが、それを同じはてなダイアリーで日記を公開されている向井さんが読んで下さって。そして、向井さんが、前田くんと俺が友達だということを面白がって下さり、この対談に繋がった、と。 ■前田 北村さんとは、実は関西大学のボンクラ学生時代にやっていた部活での、先輩・後輩の間柄なんですよ。この間、大阪のbook&café caloというお店で開かれた、画家の林哲夫さん(http://www.geocities.jp/sumus_co/)の個展で、偶然にも再会して。しかも、その日は初日だったので、林さん率いるハイ・クオリティーな新世代書物雑誌『sumus』の盟友の御二人、本バカの聖典『関西古本赤貧道』の著者・山本”ゴッドハンド“善行さん (http://www.geocities.jp/sumus_livres/yamamotonikki2.htm)と、僧侶・敏腕ブックハンター・詩人という三つの顔を持つ才人、扉野”ブッダハンド“良人さんも集結して、「蘊蓄斎ナイト」っていうカルピスの原液みたいな、「濃い」古本トークイベントでバッタリと!!いやあ、観客も「いかにも」な古本猛者風な男の人が多くて、どう見ても僕ら「小僧」でしたよね(笑)。 ▼北村 もう、ほんまに。俺なんか、ただ、憧れと好奇心だけで、行ったようなもんやからね。場違いなんじゃないかと、隅っこで小さくなっていたところに、前田が声をかけてくれたわけです。あの時ほど、前田が大きく見えたことはないよ(笑)。「蘊蓄斎ナイト」は、林さん、山本さん、扉野 さんは、もちろん、観客もみんな、大の大人が集まって、めちゃめちゃ楽しそうなんが、印象的やったね。最近の収穫本ということで、中原中也の詩集や、森山大道の写真集を、手に取って、見せてもらえたのは、嬉しかったなあ。しかし、さすがに濃すぎて、帰りは、もうフラフラやったわ(笑)。 ■前田 どうせ僕は小さいですよ(怒)。まあ、さっきも言った通り、僕や北村さんは映画研究部っていう文系部活動のど真ん中みたいな場所で大学生活やってたわけですけど、そもそも、あの文系サークルの雑居ビル自体がちょっと変な場所でしたよね(笑)。僕は元々、レコード音楽部っていう何をやってるかよくわからない部に入学式の日から入部して、一回生の中盤から授業にも出ず、ほとんどその部室にいる生活を送ってました。北村さんがいた映画研究部、通称エイケンが同じフロアでしたよね。それで、エイケンの先輩のひとりが、僕がいたレコード音楽部の先輩と友達で、よく部室に遊びに来てて。そのフロアは僕ら以外では書道部とか邦楽部とか埃くさい部が多かったから、エイケンの人とはすぐに仲良くなりましたね、異分子同士って感じで(笑)。そうするうちに、エイケンに深く関わることになって、北村さんに出会ったんです。 ▼北村 最初の俺の印象とかどうやった?俺はね、初めて前田を見たときは、ついに来たか!と思ったね(笑)。意外と、周りにサブカルど真ん中な奴は、いなかったから。ついに、現れた。文系、サブカル、オタク、ボンクラ、ついでに、メガネ、貧乏、四畳半なんかを煮詰めたような男。こいつこそ、サブカルの権化、という印象やった。しかし、あの頃から、一つ言えば、三つも四つも返してくるようなところは、変わってへんな。 ■前田 「貧乏、四畳半」って‥‥僕は実家在住ですよ!北村さんは背が高くて少女マンガのキャラクターみたいな痩せ方してるから「凄いカッコいい文学青年がいるなあ」と思いましたよ。けど、いわゆる文学青年っぽい無口な感じは全くなくて、公園でみんなで酔っ払った時にデカイ声出して一番はじけた時の印象が強いですね。ちゃんとしゃべれるようになったのはその時以来ですね。本の話をした憶えは全くない(笑)。 ▼北村 何故かエイケン時代って中学とか高校時代に比べて読書量が減るよな。なんでかな? ■前田 元々、音楽とか映画や本について話したり情報交換出来る唯一の場、みたいな部分が大きかったのに、触れる機会とか金銭的余裕は何故か減っていって、「みんなで何かする」ことが重要になっていきましたよね。まあ「自主映画を作る」とか「上映会を運営する」ていう目標があったから、体育会系の部活でいうところの「強くなる上手くなる」とか「全国大会優勝!」みたいなノリと近かったのかもしれませんね。だから、当然、時間も金も無くなるし、ひどい奴になると留年もするという(笑)。まあ、僕らも撮影の手伝いとか機関紙制作とか‥‥色々やってましたよね。 ▼北村 なんで途中で口ごもってんねん! ■前田 いや、その‥‥なんか、その、三文演技を少々。 ▼北村 まあ、一応、俺との共演作もあるしな。俺の場合は、エイケンに入ってから、役者、監督と映画制作にどっぷり、というか、授業も出ずに、遊びまわってただけやけど。酔っ払って、淀川を泳いで横断して、死にかけたり、天狗を探しにいって、六甲山を徹夜で縦走して、死にかけたり。なんか、映画と、ぜんぜん関係ないな。前田は、ボンクラ学生の役やらせたら、嵌ってたなあ。思い出す限りでは、熱血漢の後輩役、常にボールを弄んでる自閉症気味の青年役、何故かベレー帽被って気取ってる役とか演ってたよな(笑) ■前田 あーなんかアタマ痛くなってきたなあ。僕、かなり「イタい奴」ですよね(泣)。もうこれ以上詳しく言うのはやめましょう。僕らが関わった作品とか調べる奴が絶対に出てくるから! ▼北村 出てくるわけないやろ!相変わらず自意識過剰やな(苦笑) ■前田 すいません(泣)。まあ、その話はともかく、今のブログ「エエジャナイカ」につながっていくような読書生活が始まったのはいつなんですか。 ▼北村 俺は、父親が図書館司書で、母親が国語教師という、読書が推奨される家庭で育って。「本を読むことは正しいことだ」みたいな。中学の入学祝がちくま文学全集やったし。でも、幼かったからか、文学にはいかずに、10代は、映画ばっかり観てたな。それで、大学でエイケンに入ったわけやけど。エイケンを引退してからは多少余裕が出来るやん。だからもう一回、音 楽聴いたり映画観たり本読んだりし始めるよな。また集団行動から個人活動になるから、一番しっくり来たのが本の世界やったのかも。だからといって関大の学生街にわずかながら残ってた古本屋に足繁く通うようになったわけではないけど。 ■前田 あ、凄く解ります!ウチの大学の学生街って別に「古本の魅力」を教えてくれるような環境では全くないですよね。あの谷沢永一先生や山本善行さんを輩出した大学だというのが信じられないくらいです(笑)。大阪の老舗古書店・天牛書店の江坂店は、学生街じゃなくて住宅街にあるから、「学生街の古本屋」じゃないし。牧歌的な「学生街」的エピソードは多いですけど、いろんな本を知ったりするのに良い環境かどうかは疑問ですよね。 ▼北村 確かに。俺も天牛書店行く時は、何故か車を持ってる友だちに連れてってもらってたわ(笑)。学生生活の中にあるわけじゃなくて、「古本屋に行く」という非日常やったな。今、関大前には、どんな古本屋が残ってんの? ■前田 なんか、毎週『少年ジャンプ』とか『少年マガジン』の最新号を発売日に安く売ってくれるところはありますよ。おそらく店員が読み終わったものを、「古本」として安く売ってる。 ▼北村 コンビニで立ち読みすりゃ済む時代に、こんな商売が成り立つのは凄いけどね(笑)。 ■前田 そこはいわゆるアニメとかネットとか大好きな正統的な「オタク」っぽい子たちのサロンみたいになってる店で、なぜか駄菓子も売ってます。その裏通りには教科書販売専門の店が一軒。 ▼北村 ああ、あったなあ。教科書はあそこが一括して扱ってる感じやったっけ。けど、奥の方には歴史とか思想の本もいっぱいあったよな。 ■前田 そうそう!庄野潤三の単行本を買った友達が、店の親父から二時間ほどの文学講義を受けた後、庄野潤三にもらった、ファンレターの返信を見せられたという「ちょっとイイ話」は聴いたことがあるな。あと、ブックオフが出来てから、駅前にあった地元密着型の、エロ本も扱う「正しい町の古本屋」もなくなったのはちょっと衝撃でした。個人的には「学生街の景観が壊れる!」という思いを禁じえませんでした。 ▼北村 大袈裟な感想やなあ。俺も大学時代は完全に新刊本屋中心やったな。神戸に住んでたから、大学までは、片道2時間弱の電車通学で、当時は辛かったけど、今思えば、あの時間があったから、学生時代に、ある程度の本が読めて良かった。大きかったのは、今は亡き三宮ブックス。阪急電車の高架下にあって、外観は普通の町の本屋やねんけど、棚がめっちゃ濃いねん。北冬書房の漫画を買ったり、幻堂出版を知ったのもここ。本屋の棚に教えられるというか、初めて、棚を見る楽しさを知ってんなあ。まあ、そんな時に、関大前にブックオフができて、それで、古本を買うようになったと。ちょうど、藤沢周平に嵌ってた時期で、文庫4、50冊を新刊で買うのは辛いから、という俗な理由やねんけど。 ■前田 それから、古本に嵌っていったと? ▼北村 うん。その後、ロバート・アルトマン、村上春樹繋がりで、レイモンド・カーヴァーを読んで、短篇小説の楽しみを知ってから、がらっと読書の趣味が変わった。以前は、小説の楽しみは、ストーリーの面白さのみやと思ってたから。それから、トルーマン・カポーティ、アーウィン・ショー、ジョン・アップダイクといったニューヨーカーの作家を読むようになって。それで、翻訳者の常盤新平に繋がると。その頃、NHKの映像の世紀「それはマンハッタンから始まった」を見て、1920年代のアメリカに興味があったから、「アメリカンジャズエイジ」とか常盤新平のエッセイが、もう、面白くて。でも、もっと読みたくても、新刊本屋じゃ、どこ探しても、品切れやねん。それで、しかたなく、ブックオフに行くと、100円なんかで、あるわけ。これが、めっちゃ嬉しいねんなあ。気がついたら、もう古本の魅力に取り付かれてた。前田の場合はブックオフ行く時、一応なにか目的あって通ってたん? ■前田 あの、それに関しては、かなり長くなるんですけど‥‥話していいですか? ▼北村 じゃあ時間もないし、やめとくわ。 ■前田 そんなこと言わずに聴いてくださいよ!僕、元々、サブカル少年だったから、その流れで植草甚一や江戸川乱歩は何故か読んでましたね。あと、戦前の伝説的メンズマガジン『新青年』とか渡辺温、深沢七郎『東京のプリンスたち』のことは、完全に赤田祐一編集長時代の初期『クイックジャパン』で知りましたし。そうは言っても、心斎橋の「タイムボム」とか、梅田の「WAVE」や「ソレイユ」みたいなレコード屋さんで、輸入版の変なレコードとかCD買ったりする方が楽しかったから、いわゆる「本好き」って感じではなかったと思う。 ▼北村 お前、一応レコード音楽部の部長やったしなあ。 ■前田 そうそう。だから近代文学専攻で大学入った時には一応、高校で習う程度の近代文学知識はありましたけど、歴史的名作と呼ばれるような作品はほとんど読破してなかったです‥‥まあ、それは今もあんまり変わっていませんが(小声)。 ▼北村 え?なに?聞こえない(笑)。それで、まだ、ブックオフは出てこないの? ■前田 すいません(泣)。それで、音楽寄りのサブカル少年に「本の世界」を紹介してくれるような本はないかなって探してた時に、出会ったのが一連の坪内祐三本なんですよ。 ▼北村 どんな本が出た時? ■前田 具体的には晶文社から『古くさいぞ私は』が出たり、筑摩書房の明治文学全集の編集を手がけてた頃からですかね。でも一番好きなのはリアルタイムに出会ったものじゃなくて、『シブい本』っていう97年に出た本。その中の「エッセイストになるための文庫本一〇〇冊」っていう名篇があるんですけど、この「エッセイストになるための文庫本」っていうコンセプトが本当に面白くて。個人的に「食わず嫌い」の作家の本でも、紹介され方が絶妙で凄く読みたくなるんですよ。で、新刊書店に行くんだけど、品切れになってるものも多くて、あまり手に入らないんですよ。それでブックオフに足繁く通う破目に。はっきりいって景山民夫『極楽TV』や玉村豊男『雑文王 玉村飯店』、永倉万治『星座はめぐる』とかは、こういう出会いじゃないと絶対に手に取らなかった本だったし、都築道夫『昨日のツヅキです』や山田宏一『シネ・ブラボー』を100円で見つけた時のうれしさは今でも忘れられません! ▼北村 ブックオフに辿り着くまで、エライ長い前置きやったな!その当時って(大学)何回生? ■前田 えーと、一回生とか二回生くらいですかね。まだ、部活生活真っ只中ですよ。 ▼北村 そうやんなあ。で、どういうきっかけで古本屋に行き出すん? ■前田 「エッセイストになるための文庫本一〇〇冊」で知ってブックオフで100円で買って、ていうの続けてるうちに、いろんな作家の本も読むようになったわけですよね。そしたら、更にその作家が文章の中で、褒めてる作家の本を買ってみたくなって、古本屋とか古書市に通いだすわけです。例えば、「エッセイストになるための文庫本一〇〇冊」で知って好きになった作家の一人に橋本治がいるんですけど、彼がエッセイで山田風太郎『幻燈辻馬車』を絶賛していて、その影響で山田風太郎の本を集め出す、みたいな。 ▼北村 なるほど。やっぱり、古本を知ると、色んな作家を知るようになるよな。しかも、知識としてではなく、純粋に読書の対象として。他には? ■前田 さっきから僕ばっかりしゃべってないですか?あとは『sumus』の「関西モダニズム」号にも凄く影響を受けた。『sumus』は京都にある関西サブカル本屋の総本山・恵文社一乗寺店で買いました。海野弘の大阪モダン建築探訪記『モダンシティ再び』は高校時代の愛読書だったから、もう「最高の雑誌だ!」と。そして坪内祐三と『sumus』をつなぐ線が林哲夫さんの『古本デッサン帖』や『古本スケッチ帖』で、それで現在に至る全てがつながる、と。 ▼北村 なんかキレイにまとまったね。俺にとっても当然『sumus』はすごく大きい存在。坪内祐三『文学を探せ』で知って、初めて買ったのは、神戸の海文堂やった。あと、やっぱり『sumus』と言えば、「スムース文庫」の荻原魚雷『借家と古本』やなあ。この本こそ、ぼくらのバイブル!迷ったとき、弱ったとき、ヘコタれたときにこそ読んでほしい。 ■前田 僕も何度読み返したことかわからないです。はっきりいって今の時代の「正しい男子の生き方」のヒントがいっぱい詰まってると確信してます!きっと、いわゆる「本好き」以外の若者にも凄く訴えるものがあると思います。この対談連載も「sumus」や『借家と古本』以降の本バカ生活を模索するようなものを目指したいですよね! ▼北村 かなりデカい風呂敷を広げたな。しかし先人は偉大やぞ。 ■前田 いや、それでも岡崎武志さんの言うように「わたしはわたしの風邪を引く」、いや引こうとするのが本バカの心意気ってもんでしょ!というわけで次号から夜露死苦!! メルマガ購読はこちらから http://www.mag2.com/m/0000106202.html ※感想はコメント欄へ。ただし返答はしておりません。ご了承ください。 ------------------------------------- プロフィール 前田和彦(まえだ・かずひこ) 1981年大阪生まれ。『BOOKISH』編集委員を経て求職中。 小さくてすぐ興奮する様から犬の「狆(ちん)」を連想させるために 「大阪の狆」の異名を持つ(南陀楼綾繁氏命名)。 狆についてはこちら。http://www.dogfan.jp/zukan/japanese/chin/ 北村知之(きたむら・ともゆき) 1980年神戸生まれ、神戸在住、絶賛求職中の25歳、ダラダラとアルバイト しながら本を読む日々、ハローワークと古本屋通いが日課。好きな作家は 山口瞳、野呂邦暢、藤沢周平。 ブログ日記「エエジャナイカ」http://d.hatena.ne.jp/akaheru/
by sedoro
| 2006-01-22 17:55
| チンキタ本バカ道中記
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