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古本バイト道 ーこんなアタシに誰がしたー 第20回 古文書の幸せ 濱野奈美子

 前回の「古本バイト道」が掲載されたメルマガが配信された頃、私は古書会館におりました。もちろんまたバイトです。でもですね、長年古書業界でバイト してきましたが、今回のバイトは今までやったことのない仕事だったんです。妙に新鮮だったので、今回はそのお話です。

 7月の8、9日は明治古典会の七夕古書大入札会の下見会、10日は入札会でした。今までいろんな「会」の大市のお手伝いをしてきましたが、なぜか明治 古典会だけはやったことがなかったんです。いや、目録を作るのを手伝ったりしたことはあるんですけど、当日行ったことはありませんでした。下見会に客 (もちろん素見)として行ったことはありますが。
 明治古典会の七夕の下見に行かれたことのある読者の方はいらっしゃるでしょうか? これはいつもの展覧会とはぜんぜん雰囲気が違いますよ。まず、ク ロークにいらっしゃる人の服装が違います。白いブラウスと黒いタイトスカートで、「いらっしゃいませ」と優雅に迎えてくださる。明治古典会の会員さんや 経営員もみんなスーツ着ちゃってます。以前、東京古典会の大市に私がゆるーい服装で出かけて行って怒られた話を書いたことがありましたが、明治古典会や東京古典会の大市っていうのは、そういう“ハレ”な感じなんです。展示品もみんな高価そうだし(今年の目玉は「五箇条の御誓文起草稿巻」でした)。

 さて、そんな華々しい七夕市で私はどこにいたかというと、地下です。地下? いつもの展覧会と一緒じゃん。ノンノン。一緒じゃないんですよ。だって、 私はここで3日間ひたすらお茶をくんでいたのですから。ウェイトレスですよ、メイドの格好をして・・・・・今、怖い想像しちゃいましたか?
 まぁね、秋葉原も近いことですし、メイドドレスを調達してくるぐらいワケないんでしょうけど、そこまで体張ったネタができるほど笑いに命かけてないんで、メイドはウソです、もちろん。
 でも、お茶くみは本当です。下見会の間、地下がどうなっていたのかというと、商談室兼休憩室だったのでした。下見会っていうのは一般のお客さんも見に 来られるわけです、見に来て、「あ、あれ欲しい」と思っても、お客さんは直接入札することはできません。入札は本屋さんしかできないんです。ですから、 お客さんは馴染みの本屋さん、もしくはその辺にいる本屋さんを捕まえて、入札価格の相談をするわけです。そのための場が地下に設けられていたのでした。 私はそこでお客様にお茶をお出しする係です。

 そうはいってもですね、そんなたいしたモノは出ては来ないんですよ。カウンターにペットボトル並べて置いて、そっから紙コップに注ぐだけなので。ウーロン茶「煌」、午後の紅茶ミルクティー、ドトールのアイスコーヒー(無糖)、バヤリースオレンジ、DAKARA、南アルプスの天然水…などなど、ドリンクの種類だけは異常に豊富でしたし、氷も一応入りますけど。あと、ホットコーヒーはユニマットの豆を使ってミネラルウォーターで入れていたので、入れたてはなかなかおいしかったです。ホットコーヒーばっかりがヘンに出ていたのは、コーヒーがおいしかったからなのか、館内の冷房が利きすぎてたのか、今と なっては確かめようがありませんが。
 そんな商談室でした。でも、地下って意外と音が響くので、密談には向かないような気が…とちょっとドキドキしてみたり。

 10日の入札会の最終開札は地下で行われました。この日も私は開札を待つ本屋さんたちのためにせっせとお茶くみ。お昼にステーキ弁当を食べて、最終開札が終わってからサンドイッチをつまんで、ついに一度も「五箇条の御誓文起草稿巻」を見ることもなく、私の3日間は終わったのでした。その「五箇条の御誓文起草稿巻」ですが、なんかとんでもない値段で落札されていた気が…。同じ古書会館内とはいえ、私と「五箇条の御誓文起草稿巻」とでは、まったく別の濃さの3日間を過ごしていたのでしょう。福井県立図書館で幸せになってもらいたいものです。と、そんな古文書の幸せ願うくらいなら、自分の明日の生活をなんとかしろっ! 
なんてセルフつっこみを入れる今日この頃です。

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プロフィール
濱野奈美子(はまの・なみこ)
フリーライター。長い古本バイト経験を生かして『アミューズ』の古本特集や
『古本 神田神保町ガイド』(共に毎日新聞社)などで活躍する。本業のライ
ターでは古本だけではなく、サッカー、食べ物なども。なんでも来い。
by sedoro | 2006-01-25 13:31 | 古本バイト道
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