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早稲田の文人たち 第28回 まだ続くむだ話〈その4 〉  松本八郎

●《スムース文庫08》『加能作次郎 三冊の遺著』愈々刊行!               

本欄で、昨年の4月から6月にかけて採り上げた「加能作次郎」のなかで、《スムース文庫》の一冊として予告宣伝していた拙著『加能作次郎 三冊の遺著』が、このほどやっと発行された。
 「加能作次郎」という作家は、今日ではほとんどの人には馴染みのない名だと思われるが、それも道理で、彼の生前の単行本はすべて大正期に発行されたもので、昭和期に入ると、亡くなる年の昭和十六(1941)年まで、一冊の作品集も発行されることがなかった。
 没後すぐ、遺著あるいは追悼出版として、作品集が三冊刊行されるが、日米開戦の直前のことで、敗戦後はすっかり忘れ去られ、これらの本も今日では容易に手にすることができない(作次郎の出身地・石川県能登の地元では、戦後に二冊の作品集が刊行されている)。

 今回の『加能作次郎 三冊の遺著』の、そのサブタイトルに「その出版社・その出版人」とくっつけているが、それは、16年間もジャーナリズムに無視されつづけた作次郎に、最後の花道を歩ませようとした、作次郎の早大の後輩である谷崎精二、宇野浩二、広津和郎に加え、この三冊の作品集を刊行した「牧野書店の牧野武夫」「桜井書店の桜井均」「大理書房の田中末吉」について書いているからである。
 作次郎の経歴については、大正十(1921)年の大日本雄弁会発行『大正新立志篇』に紹介された「文士、加能作次郎君」を復刻・再録しているので、くわしくはそれをお読みいただきたい。
 《スムース文庫》は、 早稲田では古書現世、神田では書肆アクセス、京都では三月書房、その他で販売されているので(頒価=500円)、是非ご購読くださり、いろいろご教示くださって、ご意見をお聞かせください。

 そんな「加能作次郎」なので、私共の[EDI叢書]の一冊として『加能作次郎 三篇』を編んだのだが、そのキャッチフレーズに「忘れられた作家たち」と書いたら、[EDI叢書]が完結した今年に入って、某大学名誉教授から「彼らを『忘れられた作家』とは……。(略)原本とてすぐ入手出来るものを」と揶揄され、バッサリ斬られてしまった。
 まあ、専門が近代文学史で、その他いろいろ肩書きもあり、古書価10万円前後もする「加能作次郎の原本」を、屁とも思わず買える身分の人間にとっては、「知ってて当然」「読んでて当然」だろうけど、ともかく、この叢書の刊行の趣旨も読み取れない、この手の学者先生の世間知らずには、ホトホト困ったものだ。ハッキリ云って営業妨害である。

 作次郎の二百余篇ほどの作品を、彼の云う「きりりとした選集」にすることなど、【金さえあれば】、----なんでもかんでもブチ込んだ、ただブ厚いだけの、彼の著作以上に、いや、それよりも数倍もましな本を作るぐらい----それこそ屁でもない。
 そんな批判を偉そうに云うぐらいなら、自分のポケットマネーで「選集」でも作ってから、言って欲しい。スポンサー(版元)がいて、肩書きのお蔭で、全集や選集の監修料を貰っているだけの人間から、とやかく言われたくはない!
 私の場合は、本業で稼いだ僅かな金から、なお 四苦八苦の捻出をして、作っている!
 「第一、あなたは、自分の懐から金を出して、[EDI叢書]を買ってくれましたか?」
 しかしそれにしても、この御仁、研究者でもない素人(単なる文学フアン)相手にケンカを吹っかけるなんて、いったいどういう性格をしているんだろう?

 みなさんは、加能作次郎の名前を知っていましたか? 加能作次郎の作品を読んでいましたか? 加能作次郎の「原本とてすぐ入手出来」ましたか?

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プロフィール
松本八郎(まつもと・はちろう)
1942年、大阪生まれ。早稲田在住40年。早稲田にて出版社EDIを主宰。忘れら
れた作家たちをこつこつと掘り起こす。「EDI叢書」「サンパン」などを発行
して話題に。「sumus」の同人でもある。
EDI ホームページ http://www.edi-net.com/
by sedoro | 2006-01-26 14:04 | 早稲田の文人たち
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