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通天閣の見える街から 第12回 ~逆説と独断の人~ 八子博行

「BOOKISH」最新号が大詰めで大変だ。
こんなことを言うと叱られそうだが、あまりにもやるべき事がありすぎると、私の場合、だんだんとダラけてくるという困った癖がある。仕事に追われるというのが、生理的に嫌なのである。あれもして、これもしてと考えるているうちに、頭が朦朧としてくる。ストレスに対しては、極めて脆弱な体質なんである。(んなこと言ってる場合か!)
  
てなわけで、今回の特集は、もうここでも何度も紹介しているように「画家のポルトレ」と言うタイトルで、画家の文業に焦点を当て、言うなら、近代日本のもう一つの「文学誌」みたいなものを編み出してみよう、ということである。谷中安規、村山槐多、松本竣介、亀山巌、内田巌、鍋井克之など。谷中安規については、最近、東京そして宇都宮と巡回で展覧会が開かれた。また、内田巌は、この10月から、神戸の「小磯良平記念美術館」で、生誕百年を記念した遺作展が開かれている。さらに、「 BOOKISH」にも目録を寄せて頂いている、名古屋の書店「書物の森」が去年、「名古屋モダニズムシリーズ01」と題して、亀山巌が版元になった「名古屋豆本」の展示を行っている。そんなわけで、取り上げた画家たちは、今でも多くの人々の関心を惹くに充分な魅力を備えた人たちと言えると思う。
  
その亀山巌の「名古屋豆本」だが、20年以上に渡って、定例本百十六冊、別冊二十八冊が刊行された。今回、この「名古屋豆本」の最終巻である『私の生きた時代』(亀山巌)に目を通す事が出来た。これがまた、何とも面白かった。亡くなった1989年に行われた講演会を纏めたものだ。詩人・エッセイスト・画家そして中日新聞編集局長まで努めた亀山巌という、稀代のマルチ人間の人生哲学が実に生き生きと語られている。

「恐らくは僕の生き方というのは逆説と独断だけだと思います。そして今一番大切にするのは省エネでしょうね、万事につけてそうなんです」

「ツッパル事が大嫌いなんです。ツッパルにはエネルギーがいる、なんでもかんでも私は可能な限り力を入れるということが嫌いなんです」

「議論になりますと力まないといけませんし、くたびれますから、僕はおしゃべりが好きなんです。つまらない話、役にたたん話が一番好きなんです」

「志というものを立てると、その志のために生きづらくなる、そしてその立てた志に辿り着けるかと言うと、僕はあまり辿り着けた人を聞いたことがない、それだったら気楽に行きましょうというのが、私一代の昭和史といえるんじゃなかろうかと思います」

こういう味のある人生哲学を読むと、「考現学」から、「雑学倶楽部」そして「現代風俗研究会」への関わりといった側面が思い起こされる。つまり、旺盛な好奇心と面白い物好きという側面で、「楽しさ」や「遊び」というものをなにより大事に追求しようとした人生。さらにその好奇心は、性文献方面にまで伸びていったりする。こんな魅力的な人物と出会えるのも雑誌編集をやった賜物にちがいない。忙しさに押しつぶされている場合ではないのだ。働け! 

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プロフィール
八子博行(やこ・ひろゆき)
1950年大阪生まれ。
小学校教師を20年続けた後、関大前で「ゲートマウス・カフェ」という飲食店を経営。
(ゆくゆくは古本も置きたいという)
季刊雑誌『BOOKISH』の創刊に参加、4号から編集・発行人に
# by sedoro | 2005-11-03 23:55 | 通天閣の見える街から

古本バイト道 ーこんなアタシに誰がしたー 第11回 サブレで買われた女・・・ 濱野奈美子

 10月1日から6日まで、早稲田青空古本祭でした。今回は番外編として、古本祭の話を書きたいと思います。メルマガの編集長も「店番日記」に書いていたし。そんなわけで、今回は番外編。現在の話です。

 お客さんとしては、即売展の初日ってなんとなく行きにくいんですよね。ちょっと私なんかおよびじゃないって気がしてしまうので。だからなんとなく、いつも後半のほうになってしまって、時には最終日なんてことも珍しくなくて、本屋さんに「ダメだよ、もっと早く来なきゃ」とか言われてしまいます。

 穴八幡には4日の月曜日に行きました。あいにくの雨で、平台にはみんなブルーシートが掛けられてしまっていて、ちょっと寂しい感じです。こそこそと「私、客ですから」みたいな顔で棚を見ていたのに、やっぱり見つかってしまいました。「今日は誰のバイト?」とか言われちゃうし。私だって本買うんですってば。お財布には4000円しか入ってませんけど、これで全財産ですけど、
なにか? 

 一通り棚を見終わって、さすがに全財産は使えないので2枚だけ帳場で出して、おつりをもらいましたが、まだその後に控えている仕事の打ち合わせの時間 には早い。所在ない感じで帳場のところにいると、「バイトしてけば?」の声。いや、働くのはやぶさかじゃないですけどね。どうせ暇だしと、思ってたら、「これ、持ってけば?」とココナッツサブレを差し出されました。ココナッツサブレ1袋で買収される女…なかなか切ないものがあります。
 
 結局、お客さんが立て込んでしまったときだけちょっと働きました。「ありがとうございました」とお客さんを見送ると、後ろから「割引券ちゃんと渡した?」とつっこみが。ふっふ~ん。「ちゃんと渡しましたよ」と勝ち誇った顔で答えましたけどね。

 ちなみに、そのココナッツサブレは2日間私を生きながらえさせてくれました。尊いなぁ、労働。

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プロフィール
濱野奈美子(はまの・なみこ)
フリーライター。長い古本バイト経験を生かして『アミューズ』の古本特集や
『古本 神田神保町ガイド』(共に毎日新聞社)などで活躍する。本業のライ
ターでは古本だけではなく、サッカー、食べ物なども。なんでも来い。
# by sedoro | 2005-11-03 23:51 | 古本バイト道

早稲田の文人たち第17回 中休み むだ話・その3  松本八郎

●西村晋一と『游牧記』
 「蝙蝠座」や「新興藝術派」に、西村晋一が参加しているのであれば、あるいは講談社版『日本近代文学大事典』に載っているのではないかと思い、ページを繰ってみると、果たして、わずか
な字数ながら次のように紹介されていた。
 《西村晋一 にしむらしんいち 明治三九・五・二九~昭和四三・一〇・二七(1906~1968) 演劇評論家。東京生れ。昭和六年早大英文科卒。在学中から文芸春秋社に勤務、「演劇新潮」「文芸春秋」をはじめ「キネマ旬報」「朝日新聞」等に演劇全分野の劇評を書いた。八年東宝創立とともに小林一三に招かれ、雑誌「東宝」編集長と東宝劇団文芸部を兼務、戦後は演劇部企画室長となった。劇評集『演劇明暗』(昭一二・七 沙羅書店)がある。(永平和夫)》

 西村晋一の生年が判明したところで、逆算すると、〈その1〉に記したように、寄贈者を含めてわずか500部ほどの高踏雑誌『游牧記』を、彼が予約購読していた時の年齢は、編輯発行者・平井功とほぼ同い齢の、まだ23歳の早大生であったということが分かる。
 『游牧記』の監修者・日夏耿之介が、早大英文科の教授であったことを考えると、これは恐らく授業中に、日夏耿之介の樋口国登先生から勧められたか、あるいは「『游牧記』を予約購読したら、単位をやるぞ」と云われて(?)、西川晋一くんは、しぶしぶ買ったのかもしれない。
 『游牧記』の各册巻末に、寄贈者や予約購読者の名簿が掲げられている。寄贈者名簿には、耿之介の早大の師(耿之介の媒酌人でもある)吉江喬松の名があって、そのほか木下杢太郎、鈴木信太郎、辰野隆、折口信夫、幸田露伴、西條八十、佐藤春夫らの錚々たる顔触れに混ざって、「臨時本」ながら、当時29歳の壽岳文章(英文学者・書誌学者)、同じく26歳の庄司浅水(書物研究家)も寄贈を受けている(そのほか、「ぐろりあ・そさえて」の伊藤長蔵も、こちらは「局紙」を使った「正規本」で寄贈を受けている)。
 予約購読者の名簿には、平井功の実兄・正岡容、詩人で作家の長谷川四郎、仏文学者でその2年前に吉江喬松の招聘によって早大教授となった山内義雄、「昭森社」の森谷均らの名前が、400番台の半ばまで続き、その後は537番の限定部数まで空席になっている。 しかし、その空席の中でただ一人、ポツンと500番の指定席に、戦後、デザイン評論家として活躍し、1964年の東京オリンピックではデザイン部門の総合プロデューサーを務めた、勝見勝の名前がある。彼は当時、まだ東大美学に入学したかしなかったかの、20歳の青年であった。
 で、23歳の早大生である我が西村晋一くんは、何番の指定席を確保していたかというと、42番。全部数10分の1の、50番以内に入るとは、なかなか真面目な学生である。
 この『游牧記』の購読者は、のちに活躍する人も数多く、それに結構、皆な若い。この時代の人々は、早熟で、勉強家でもあったようだ。
(つづく)

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プロフィール
松本八郎(まつもと・はちろう)
1942年、大阪生まれ。早稲田在住40年。早稲田にて出版社EDIを主宰。忘れら
れた作家たちをこつこつと掘り起こす。「EDI叢書」「サンパン」などを発行
して話題に。「sumus」の同人でもある。
EDI ホームページ http://www.edi-net.com/
# by sedoro | 2005-11-03 23:49 | 早稲田の文人たち

早稲田で読む・早稲田で飲む 第17回 生協書籍部との5年間【本部篇】  南陀楼綾繁

 早大の本部生協は、西門通りを出て右側の建物だった。隣はテニスコートだったと思う。入口の辺りには自動販売機があったりして、学生の溜まり場になっていた。入った年の4月にこの
辺で、荒木経惟がサイン会をやっていた。小林信彦との共著『私説東京繁盛記』(中央公論社)の販促だったが、いま調べてみるとこの本は1984年に出ており、なぜ二年後にサイン会をやっていたのか謎だ。白夜書房の編集者・末井昭氏がヨコにいてサックスを吹いていたのも、謎だった。しっかり二人分のサインをもらったが。

 それはさておき、教育学部の前の広場を抜けて小さな門から外に出ると、すぐヨコに階段があり、そこから生協の裏口に入れた。書籍部に行くのに、そのルートを愛用した。今日はナニか新しい本が入ってるかな、と期待しながら、狭い階段を下りていくときのカンジが好きだった。本部の書籍部は、文学部の生協の数倍の広さがあり、理工書、政治、経済、法律などの専門書、洋書、学術雑誌などが揃っていた。ぼくが専攻した歴史学やサークルでやっていた民俗学の本も、コッチのほうが量が多かった。見つからなければ注文して取り寄せることもできた(けっこう早く届いたように思う)。

 本部の書籍部を本格的に使うようになったのは、おそらく3年生の頃。当時、「早稲田カード」とかいう、大学発行のクレジットカードを手に入れ、それで本を買いまくった。一月に3万とか4万
使い、それを6回とか12回の分割で支払う。よく考えたら(いや、考えるまでもなく)、分割手数料がものすごいのだが、前に買った本を引き落としで現金がなくなってしまい、それでまたカードで支払うという悪循環だった。一歩間違えば、新刊本でカード破産していたかもしれない。

大学を卒業してからも、生協は使っていた。大学院の試験に落ちて、一年間、「研究生」という、まあ聴講生みたいな身分だったのだ。授業に出たコトはほとんどなく、図書館と生協を使う権利を確保するために、親に授業料を出させたようなものだった(いまさらだが、両親に感謝)。この年の7月10日の日記には、以下のようにある。

「生協に行く。橋本治の『桃尻娘』完結編はいまだに出ない(あとで東販ニュースをみると、また一カ月のびて8月10日になったとのこと)。『近代庶民生活誌 天皇・皇族』『南方熊楠アルバム』『美酒ミステリー傑作選』『小さん集』『正蔵・三木助集』などをもってレジへ行き、『明治編年史』と一緒に精算」

『近代庶民生活誌』は三一書房から刊行されていたシリーズで、一巻8000円ぐらいだった。『新聞集成 明治編年史』全15巻は、戦前に出たものの縮刷復刻版(本邦書籍)で定価は8万円。つまり、この日だけで10万円近くの出費だ。もちろん、このあと2年近く掛けて分割払いしたはずだ。すでに、ゆまに書房でアルバイトをはじめていたとは云え、尋常ではない。

 ぼくにとって大学生協は、必要な本を安く買えるありがたい場所であるとともに、毎月大量に新刊を買ってしまう習性をもたらした、うらめしい存在でもあるのだった。

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プロフィール
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)
1967年、出雲市生。1986-90年、早稲田大学第一文学部に在学。現在、ライター・編集者。著書に『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、編著に「チェコのマッチラベル」(ピエブックス)がある。

▼南陀楼さんのブログ日記はこちら!
ナンダロウアヤシゲな日々  http://d.hatena.ne.jp/kawasusu
# by sedoro | 2005-11-03 23:47 | 早稲田で読む・早稲田で飲む

目まいのする古本相談室  第7回  浅生ハルミン

【Q】
そのだみきひこ様(26歳・男)

ハルミンさん、こんにちは。最近気に入っている行為があるのです。それは、本のカバーをはずしてみるといろいろな絵、しかけがあったりするのを見ることです。隠れた装丁も楽しいものですね。ハルミンさんもこのようなことをすることありますかー?

【A】
 こんにちは、先週日曜日にあった地震が東南海地震と関係があるかどうかコメントしている地震予知情報センターの先生がさきほどからテレビジョン放送の画面に映っているのですが、その先生の背後に見える本棚は多すぎる本があふれ出していて、その本の中身はいったいどんなのかなーと気になってしょうがない浅生ハルミンです。地震のプロの人のまうしろにある本棚が、あのように、揺れたらすぐ崩れ落ちてしまいそうな状態にあるということは、大地震はしばらく起こりませんよという無言のメッセージなのでしょうか。

 本の装丁…それは本をそっと包んで中身とのハーモニーを楽しませてくれる仕掛け…。カバーをはずしてみて、それを助けるような造本の設計を感じられるとき、その本を手に取った喜びはまた格別のものです。お財布のヒモもゆるみます。隠れた装丁は本のおまけみたいなもの、という得した気がする楽しみもありますが、一方で、「なにもしてない」が設計されている本もいいなあと思うし、古本では前の持ち主の「書き込み」というのも本を読むときの楽しみのひとつだし、なんというのだろうか、カバーの外側にもう一枚掛ける古本屋さんがつけてくれるカバー(三茶書房のこけし柄…)もきゅーん。帯は?帯は背と裏表紙の接する折り目のところで二つに折って(それは折り目が表紙に響かないようにという貧乏性からの発想)、本屋さんがくれたレシートも本に挟んだまま読みますが、そんなことをしていたら着ぶくれのようになってしまうので、理性で押しとどめねばなりません。このように、私は一冊の本に付き添っている紙類はすみからすみまで本の一部と思ってしまいます。といっても装丁者の綿密な設計いがいのものまで、何かを読み取ってしまうのは私の悪い癖なのかもしれません。

 先述の、テレビ画面に映っていた地震情報センターの崩れ落ちそうな本棚は、実直そうな先生の姿とは激しく対照的でありながら、かつ「地震への備えはまだしなくていいですよ」という安心を如実に伝えているいい装丁だと思いました。ちなみにその先生のコメントも「このごろの大きな揺れは東南海地震とは関係がないです」ということだったです。よかったー!それでは失礼いたします。

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浅生ハルミン(あさお・はるみん)
イラストレーター。『彷書月刊』にて「ハルミン&ナリコの読書クラブ」を連載中。著書に『私は猫ストーカー』(洋泉社)がある。
# by sedoro | 2005-11-03 23:40 | 目まいのする古本相談室